ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

[2022] 生存報告番外: 506番房記録 2日目

 収監されて最初の朝は、全体放送で起こされた。専用システムへのデータ入力を準備せよという。7時の点呼だ。もうそんな時間かと思ってまだ眠い中時計を見ると、時刻は6:45だった。

 体温計を腋に差してクリップのような機械(何をどう測定しているのかは不明だがパルスオキシメーターというらしい)に指を挟み、それらの結果が出るまでには1分とかからないだろう。7時に入力するのなら、もう少し待てなかったのか?15分も早く起こす意図はどこにあるのか?これでは、2限の日と起床時間がたいして変わらない。

 実は各配給の1時間ほど前には放送があり、これから食事を準備するが所定の時間まで収容セルからは出ないようにと通告される。別に出る気もないが、備えるようなこともない。これは特に意味のない放送だったが、今日は少し準備が遅れていると伝えられた。点呼も遅くできないか?

 朝食は、GUH(胡麻と梅干しと白米)、焼き鮭、揚げちくわ、唐揚げ、漬物、卵焼き、野菜(人参とほか2種)だった。生来の不器用さが災いして、焼き鮭を食べるのに時間がかかった。結局、和食に合うだろうと持ってきた味噌汁も、ホテルの優雅な朝を演出するのに一役買ってもらおうとコーヒーも、今は飲まずに終わった。帰るまでには飲むこともあるだろう。

 ちょうど朝食を食べ終わると、Googleフォトが5年前の今日の写真を持ってきた。どうやら、高校の部活で行った最後の合宿があったらしい。我々が高2だった頃のことだ。そこにはバーベキューがあり、花火があり、あとなかなか再点火できない花火セット付属の蝋燭があった。今とはなにもかもが違う。感傷に浸っていると眠くなってきて寝た。

 はずだったが、電話に起こされた。時刻は9:30に近く、看護師の問診だった。特に問題はなく終わる。その後は今度こそ寝付けたものの、1時間程度で目が覚めた。

 薄暗い室内でぼんやりしていると、昼食の時間になった。寝起きだからか少しふらつく。部屋を出ると、エレベーターで若い女のふたり連れと乗り合わせた。別の囚人は何人か見たことがあるが、ふたり連れは初めて見る。

 帰りも、ちょうど弁当を加熱している間に再エンカウントした。ふたりとも私と同じフロアのようだ。そういう融通も効くのかと思って収容セルに戻ろうとすると、同じ部屋に入っていくのが見えた。すべてが個人ではないらしい。こんなことなら知り合いを捕まえてくるべきだった。

 昼食はGH(胡麻と白米)、新香、ポテトサラダ、卵焼き、ブロッコリー、人参、さつまいも、焼き鮭、唐揚げ、レモン、野菜、油揚げだった。油揚げは特に興味深い。長さこそ10cm程度はあったかと思われるが、とにかく薄い。断面図のタテの方が長いのではないかと思われるくらいには薄い。それが1本しか入っていないのだ。

 夕飯まで時間を潰そうと、コンパスを起動する。10回MVPのミッションを残すのみだが、なかなか進まない。うっかりS2に行ってしまったこともあってやはりこのゲームとは合わないことを再認識し、『CARRION』を起動した。積んでいたゲームのひとつだ。

 泣き喚いて逃げ惑う職員をおつまみにダクトを這いまわっていると、尻が痛いことに気付いた。痔ではない。もちろん何かが入ったのでもない。検証の結果、原因はイスにあると判明した。

 イスを調べてみると、どうやら座面に板がないらしい。座面はただの枠であり、当然真ん中が空いている。指を広げた片手が入るくらいだろうか。その枠の上から薄いクッションを被せただけという構造なので、座面の真ん中を支えるものが何もないのだ。もちろんそこに座ったからといって穴が空くわけでもないし、著しく落ち込むということもないが、間違いなく地盤沈下は発生しており、結果として固い枠の角に人体が当たって痛むという仕組みである。

 どう位置を調整しても固い角からは逃れられない。これではPCの使用が困難になってしまう。早急な対策が必要だったが、支援要請可能なアメニティリストに役立ちそうなアイテムは見当たらなかった。座布団かクッションを自前で持ってくればよかったかもしれない。

 座布団といえば、部屋にあった枕だ。枕とは思えないほど薄い。座布団に近いし、きっと神社にあるような座布団よりは薄い。ただ、現時点で寝ることに問題はない。思っていたより鈍感なタイプなのかもしれない。

 夕食は、GUH、新香、ポテトサラダ、卵焼き、人参、さつまいも、ブロッコリー、レタス、プチトマト(1/2)、野菜、油揚げ(昼のものよりはまだ厚い)、鶏肉のバジル焼き、レモンだった。バジル焼きではなかったかもしれないが、少なくとも焼かれた鶏肉に小さな葉らしきものが多数付着していた。3食焼き鮭ではなくてよかった。

 食後、シャワーを浴びた。浴びてから思ったが、昨日もシャワーだった。普段からシャワーで手短に済ませることが多かったが、ここでは手短に済ませる必要などない。せっかくあるのに排水口しか使わないのももったいないし、明日は風呂を使ってみようと思う。