6日目 後編
里はここから遠い山の中にある。最良の手段であるバスがない以上は歩くしかない。地図によると1時間以上かかるようだ。幸いにも、道はそこまで複雑ではなさそうだった。今から出発すれば、どうにか帰りはバスに乗れる。山へと進路を取った。
なお、例のスーツケースに加えぱんぱんに膨れ上がったトートバッグを装備している。トートバッグは重く、スーツケースも重く、歩き出してそう経たないうちに駅のコインロッカー代の節約を後悔した。せめてベンチで荷物を詰め直せばよかった。
山道だけあってか、道のほとんどが坂だ。周囲も畑や木々ばかりで人はほぼおらず、だんだん参ってくる。風景はなかなか綺麗だったが、共有できる相手もいない。バスに乗れなかったことが強く悔やまれてならない。
道中、養鶏場らしき建物があった。養鶏場自体見るのは初めてのことだったような気がするが、おそろしい数の蜘蛛がそこかしこに巣を展開していた。それぞれは中指か人差し指くらいはありそうなくらい大きい個体が数えきれないくらいいる。東京ではまず見ない光景だ。普段は蜘蛛を見たところで何も思わないぼくも、これにはさすがに引いた。今回の実習すべてを通してもっとも田舎を感じたのはこの瞬間だったかもしれない。
道を間違えることも大きく遅れることもなくどうにか里へ到着した。しかしバスの時間はもうすぐ後に迫っている。せっかく辿り着いた感傷に浸る暇もなく、最寄りの店にあったB級品ワゴンセールでコップと皿を買った。黒っぽいながら虹色の光沢を放っているのが気に入り、ゲーミング焼きと呼ぶことにした。
バスに乗り、これまでの道をあっという間に戻った。土産物屋を見直して時間を潰し、空港がある隣の県行きバスに乗った。ここの県にもこれでお別れだ。窓の外に、図書館が見えた。
到着した県は妙な構造をしている。空港と首都は離れており、さらに首都から少し離れたところにも大きな都市がある。どちらに行くか迷ったものの、とりあえず首都で夕食を探すことにした。思い出してグループを確認したが、他のメンバーはすでにここを発ったようだった。ひとりは確定だ。
端末のバッテリー残量も少なくなる中、よさそうなラーメン屋へと迷いつつ辿り着いた。ラーメンは個性のある個人店のようでいてチェーン店ということがよくあるから油断できないが、チャーシューが柔らかくておいしかったので気にしないことにした。今もどちらかはわからない。
さて、今夜の宿を決めねばならない。買ってある飛行機のチケットは明日のものだから今夜はこちらで過ごさなくてはならないが、宿は決めていなかった。そこらへんで快活クラブに行けばいいと考えていた。首都にもあるようだが、近くの大都市の方が安いらしい。さっきまで乗っていたバスはどこで降りてもよかったから、バスの中で決めれば今移動せずに済んだはずだった。そういつもながらの行き当たりばったりを発動していると、さらに別の近くの町にある店の方が安いと判明した。
到着して聞いてみると、鍵付き個室は空いているものの、フラットシートではないらしい。まだマシだろうとそこの部屋を選択した。考えてみれば、ひとりでネカフェを使って泊まるというのは初めてだった。それを旅行先で決行するのは愚かだったかもしれない。
荷物を運びこみ、端末や予備バッテリーの充電を開始して後は寝るだけとなったが、せっかくネカフェに来たのでジョジョ7部を読み始めてしまった。完結した。
多少遅くなったもののいざ寝ようとすると、とても寒いことが判明した。空調の問題ではなく、隙間風が吹き込んでくるのが原因のようだ。これでは自宅と変わらない。ブランケットを使っても駄目だった。
7日目 前編
寝たのか寝ていないのかよくわからない状態で目覚めた。今日の予定は、帰京してアルバイトに直行だ。