ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

実習で異文化交流 その①

 弊学部では、ひとつ選んで実習に行かなくてはならない。行き先は1年生の後期に提出した希望とGPAを元に決定される。その後、2年生では隔週、3年生では数回の事前学習を得てそれぞれ実習を行い、事後学習をもって単位は修められる。

 つまり、メンバーと初めて顔を合わせたのは2年生の前期になる。しかし、隔週な上に他で授業が被らないため、2年弱経っても顔や名前が識別できない。きちんと出席した組が遅れたり来ない人々の分の小言をもらうのにもいつしか慣れた。

 これは図書館の実習なのに、同じ司書課程を選択している者は誰もいない。自分のGPAで入れたのだから、よっぽど人気がなかったのだろうと思う。ほぼ知らないし仲良くなれるかも怪しい人々と実習に行くのは、あまり楽しくなさそうだ。

 なお、県や施設、団体などの名前は伏せている。これは不都合な内容を書くからとかではなく、関係者や後輩にうっかり見つかり、先生に特定されて読まれるおそれがあるためだ。あくまで検索避けなので、ぼかすのは最小限に留めている。

 

 

1日目 前編

 目的地が遠いので、初日は移動日だった。みんなで行動することはないので、各自着いておけということだ。不幸にも大学祭最終日と重なったため、後輩に見送られてスーツケースを転がしながらキャンパスを飛び出すはめになった。

 空港から大きな駅へ移動した後、さらに電車で移動することになる。調べてみると、2回目の移動はゆっくり行く電車に乗ればかなり安く済むようだったので、まだ少し時間があるそれに合わせて昼食を摂ることにした。

 せっかく旅行に来たのならその土地ならではのものを食べていたいのが人情というものだ。そう思って知り合いの現地人におすすめを聞いてみたが、「駅の近くがいいよ」と返ってきた。おとなしく駅ビルの中で済ませたが、食べ終わった後でチェーン店だとわかった。

 電車に乗っている時間はかなり長かった。目的地への電車はそう何本もあるはずはないと思い周囲を見回すも、知り合いらしい姿は見つからなかった。もっとも、いたところで判別できたかはおおいに疑問だ。

 すると端末に連絡があり、どうやら何人かが現地にいるらしいことがわかった。もしかしたら自分が最後かもしれない。思ったより彼らは時間に合わせて動けるようだ。

 目的地の駅に到着したが、自動改札がない。Suicaが使えないのだ。それも、乗る時は使えたのでこの駅が使えないということらしい。駅は結構大きく、駅前には、僕の最寄りにはない間接照明に照らされた綺麗な芝生や噴水もあった。進んでいるのか遅れているのか判断に迷うところだ。

 ホテルへは名前を告げるとチェックインできた。ここで他のメンバーから応答があり、これから酒を買いに行くという。思ったより話の通じる連中のようだ。彼らと共に近くのドラッグストアへ行き、酒とつまみを買い込む。さらに他のメンバーへ招集をかけ、初日から酒を飲む準備が整った。風呂に入ってから芝生で集合することにして、各自の部屋に戻る。

 風呂の準備をしようとして、ふと気づいた。スーツケースの鍵がない。

 高校生の頃の修学旅行でも同じ状況に陥ったが、あの時は鍵を自宅に忘れたのだった。しかし、今回は電車の中で鍵を見た記憶がある。鍵は忘れたのではない。失くしたのだ。

 慌ててトートバッグや上着のポケットを探るも、何も出てこない。財布の中にもない。入れるところを間違えたとかではなく、どうやら本当に失くしたらしい。

 普通ならここでパニックを起こすところだが、年季が違う。パニックを起こしつつドラッグストアへ走り、安全ピンを買ってきた。ちなみに、もし安全ピンが必要になった場合は文具コーナーではなく裁縫コーナーを探すといい。

 状況は4年前と同じだ。ならば、4年前と同じ方法で解決できるに違いない。ひとりピッキングを試みた。