ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

実習で異文化交流 その③

2日目 中編

 ここでは独自のテーマ別に資料が並べられていたのだ。テーマ別とはいっても普段のスタンダードとはかけ離れていて、無秩序としか思えない。さらに、資料は本棚の中で背の順に並んでいる。見た目は階段状で整っていても、中身はめちゃくちゃだ。

 つまり、欲しい本を探すという行為の難易度が果てしなく高いのである。著者名すら役に立たない。「ここの運営はどのジャンルに割り当てているか」を推測して探すしかない。タイトルくらいしかわからない場合はもうお手上げだろう。

 なお、これは併設された子供図書館でも同じだった。子供の頃からこれに慣れていてはちょっと心配だ。ただ、ディズニーのショーや『ナイトメア』のサントラがあり、この点で英才教育を施している点は評価できた。

 先生にスタバの季節限定フラペチーノを奢られ、自由見学の後に出発した。焼き物の産地で土産を買ったり、地域のマイクロ・ライブラリーを見学したりした。これは小さな本棚や本箱から始められる私設図書館のような活動のことであり、通学路や公園に設置されていた。行政主導のものは初めて見た。

 夕方になりホテルへ到達したところで、先生から部屋割りについて発表があった。あと2泊はこのホテルAに全員泊まれるのだが、先生を除けばソロが3部屋とデュオが2部屋という構成だという。その翌日は2名がホテルBへ移り、さらにその翌日は全員がホテルBへ移ることになる。ホテルBでもソロとデュオが入り混じるようだ。感染云々で基本ソロという事前発表とはかなり異なるが、部屋を取るのがかなり難しかったらしい。
 さて、部屋決めをしなくてはならない。先生はまず、レディファーストとして女ふたりに優先決定権を与えた。すると、先生を含めた男全員の予想を鮮やかに裏切り、ふたりともソロを選択した。残るソロはたったひとつだ。我々の目の色が変わる。
 ソロの可能性の方が高かったのも今は昔、倍率は5倍になってしまった。当然ながらデュオになったが、ここで4名の戦いが始まる。ペアをどうするかはまだ決まっていない。
 ここで、メンバーを紹介しておこう。女は爪の長さが見る度に変わる「ジョニィ」と顔の左半分にだけほくろがある「ウェカピポ」の2名、男は競馬に負けると馬刺しを食べる「復讐者」、サークルが同じで寮暮らしの「隣人」、10代から30代まで幅広く喰ったことがある「満漢全席」、履修者がひとり減った後に増えた「影武者」にぼくを加えた5名だ。この7名と先生で今回は実習に来ている。
 残ったのは隣人以外の4人だった。影武者ののことはよくわからないから避けたい。となると残るは復讐者か満漢全席だが、そう考えるのはふたりも同じに違いない。それならふたりでくっつくだろう。その予見は当たり、「組もうぜ」「いいよ」ですべては決着した。ぼくはこの未知と2泊を共にしなくてはならない。
 というのは誤りだった。残りの部屋割りを決める際、なぜかデュオ相手の交換が他の男たちの中で行われたため、ぼくと影武者は4泊を共にすることとなった。
 さらに先生含め全員で夕食へ行くことが決まり、荷物を置くべく部屋へ向かう。先に入ったのは影武者だったが、彼は部屋に入るなり奥のベッドへ陣取り、さらに床へスーツケースを展開した。奥のエリアを占拠する構えだ。部屋には長い机があり、鏡やスタンド、ゲーミング的な回るいい椅子もついていたものの、それがある奥はすでに影武者の領域となってしまった。

 ぼくは手前のベッドと机の端っこ(天板の下が窪んでいないので脚を入れられず使いづらい)、ただの椅子(回らない)を自動的に割り当てられた形だ。なお、この間一切の会話はなかった。この図太さは並大抵のものではない。陽キャとも悪意とも違う、まったく未知の存在だ。共同生活下という事実を完全に無視している。残りの日々が憂鬱に思えてきた。