ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

実習で異文化交流 その②

1日目 後編

 ピッキングには中型の安全ピンが2本必要だ。それを押し開き、だいたい直角くらいに曲げる。これさえあれば大丈夫だ。

 鍵を差し込むと溝によっていい感じに鍵穴内の何やら出っぱっている部分が押し込まれ、穴が回るようになる。これが錠の仕組みらしい。それぞれの出っぱっている部分をピンで押し込み、鍵が刺さっている状態を再現するという訳だ。

 次は、ピンを穴に差し込む。見えにくいが、鍵穴の中を照らしてみると金色の出っ張りが見えるはずだ。これをそっとピンで触り、内壁に押し込む。ピンを離すと元に戻るので押し込んだらピンの腹でそれを抑えつつ、さらに穴の奥へ降下させていく。うまく押し込めると、本当にかちりと音がする。

 これを繰り返し、左右両方すべての出っ張りでできたと思えたら、そのまま捻るように回すのだ。うまくすべての出っ張りが押し込まれていれば、鍵はするりと回るだろう。なお、同じことをして逆に回せば今度はロックすることもできる。

 出っ張りは規則正しいものと規則正しくないものがあり、前者は入れるのに苦労し、後者は押さえるのに苦労する印象だ。鍵穴の真ん中にとりあえず突っ込み、出っ張りのあるあたりに何度も押し付けて出っ張りを押し込めていることに賭けて回すのでも案外うまくいける。

 今回は30分くらいかかったが、これは要領を掴むのにかかった時間が大半だ。今回も無事開けられてよかった。鍵をかけるのはやめておいた。できるとわかったとはいえ、これから1週間毎晩するのはさすがに気が進まない。

 これでもう、あなたは安全ピン2本でスーツケースを開けられるようになった。もし自分や同行者がスーツケースの鍵を忘れたり失くしたりしたのなら……もしくは他人のスーツケースを覗くかそこから盗みたくなったのなら……この記事のことを思い出して欲しい。あと、安全ピンの先端で本体を引っ掻いて傷つけないように注意するべきだ。

 こうしてスーツケースを無事開けた後は風呂へ出かけ、その後芝生にいるメンバーと合流した。話していると、以下のことが判明した。①「旅のしおりをアップする」と言った先生はまだ上げていない、②ここにはひとりいないがそいつが着いているかはわからない、③さっき一緒に酒を買いに行った女のひとりはGPAが1.1だ。ヒトは、GPAが1.1でも生きていられる。初めて知った事実だった。

 他の者も、希望を出し忘れたらここに入れられていたというのがふたりくらいいた。もはやここは疑いようもなく最底辺の人気度だ。それでも案外やる気はあるらしい。いつものゼミとは大違いだ。

 1時くらいに解散して、部屋に戻る。みんなで朝食の時間を示し合わせ、その時間に集合して食べることにした。

 

 

2日目 前編

 時間通りに起きて朝食へ向かうと、何人かいなかった。1.1の女と、昨日いなかった男だ。前者については起きられなかったようだ。後者は、後の集合時に生存確認がなされた。

 近くの図書館へ向かう。これは主目的地の図書館ではないのだが、先生は対比として見せたいらしい。外観はけっこう綺麗だ。

 中に入り、先生から説明を受ける。見学の申し込みはしてあっても図書館側からの案内はなく、勝手に回れということらしい。また、館内はある2ヶ所からのみ撮影が許されているらしく、調べた際に似た構図の写真ばかり見つかったことも合点がいった。

 綺麗な見た目をしているのは内装も同じだった。木材と日光、そして弧を描くようなデザイン。「映える」とされるのも納得だ。書架も大学図書館のそれとは違ってどこか温かみのあるデザインが建築に合っている。

 先生が我々に見せたかったのはもうひとつあり、それが資料の排列だった。多くの図書館では、ある規則に従って資料を分類し棚に並べている。これは全国的なスタンダードだ。しかし、ここではそうではなかった。