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クソ授業アワード2021

授業が終わり、課題が終わり、今年もこの季節がやってきた。2021年度クソ授業アワードの時間だ。今年度受けた授業が審査対象となり、複数の観点から評価が行われる。評価項目は以下の通りだ。

 

課題難度

その授業において、課題をこなすことの難度を示す。要求される物量や厄介さに加え、提出期限の短さなども高ランクの条件となる。期末課題の内容は単位難度ともリンクする。

 

出席難度

その授業において、日々の授業に出席することの難度を示す。対面の1限ともなるとかなりの高ランクだが、配置や形式のみならず予習及び復習の必要量も評価対象となるだろう。

 

単位難度

その授業において、単位を取得することの難度を示す。毎年落単を大量に出しているような授業は言わずもがな、他の難度の高さに見合わないほど厳しい成績評価を行う授業も高ランクが狙える。

 

 

参考までに、悪名高いスペイン語と2021年度のワーストを見ておこう。2020年度分も選定こそ行われたものの、2021年度のノミネート授業には見劣りするため、割愛するものとする。

 

 

 

スペイン語

課題難度: EX

出席難度: EX

単位難度: EX

文句なしの最高ランク。すべてにおいて隙のない強さを見せる規格外の存在。このEXはEXTRAだけでなくEXTREMEをも意味する。これが選択必修に潜んでいるのはどう考えてもおかしい。

「90分の授業だけでは足りず追加で動画授業視聴を要求される」、「十分に読めるはずの字を汚いとして採点すらされず落とされた」、「女子だけ贔屓しがち」、「成績の異議申し立てが通じない」、「早いところ諦めて次年度に取った方が賢い」などとその悪名は留まるところを知らない。しかもその実態は、スペイン語を選択した際にランダムで割り振られる対象教員たちの内のたったひとりによるもの。

しかも、この教員は強い力を持っているらしく、現状の改善は望めないとされている。そんな悪逆無道がこのスペイン語なのである。

ちなみに、1年生が第二外国語として履修する言語を決めるのは入学前のことである。先人の遺言が届くことなく決め、後悔する者も多いことだろう。

 

 

 

ヨーロッパ史

課題難度: D

出席難度: D

単位難度: E

恥ずべき2021年度の最下位となったのは、ヨーロッパ史の中でもブリテン史を取り上げた授業だ。特定の学部には属しておらず、全学部にとっての選択必修に属している。

課題は毎週ある小テストで、それと出席ボタンの押下によって出席確認を行う仕組みだ。どちらも期限が約2日であり、ステルス属性によってアラートを発しない点は高ランクを狙えただろう。

しかし、テストには時間制限もなく、教材を見ながら解けばほぼ確実に解ける程度の難度しかない。形式がオンデマンドな上に、教材本体の閲覧期限は設けられていないことも逆風となり、評価はDランクだった。

特筆すべきは期末課題だろう。内容は「イギリス史に関する作品を履修し、その内容や感想、筆者の考えを2000字程度でまとめろ」というものだ。作品ジャンルには制限がないため、これまでに読んだり観たりしたことのある作品を題材として使えば、作業量は少なくて済んでしまう。

しかも、本来の提出期限を超過した後にも提出を受け付け、お知らせでリマインド通知まで行うという暴挙に出た。極めつけとして、原則的に評価はAAまたはAのみとする(それ以下だと就職に不利かもしれないからという配慮らしい)宣言も出されている。最低ランクもやむなしといったところか。

 

 

 

以降は、いよいよ栄えある今年度の上位3授業だ。個性的な面々が出揃った。

 

 

 

第3位

課題難度: B

出席難度: B

単位難度: D

学部必修でありアカデミック・スキルを学ぶこの授業は、出席難度と課題難度において高い評価を誇る。まず、月曜日の1限という配置が無類の強さである。さらに対面出席のみしか認めておらず、このことも高評価に寄与している。

この授業が上位に喰い込んだのは、やはり課題の寄与するところが大きい。内容は「自身でテーマを設定し、それについての研究レポートを執筆する」というシンプルなものであった。これまでの授業ではある程度の方向性を示したものが多かったとはいえ、自由度が高いということは必ずしも悪いことではない。

問題は、担当教員が抱く執筆形式への異常な執着にある。そもそもこの授業では、レポートの形式や引用の方法といったいわゆるアカデミック・スキルを学ぶことも内容に含まれるのだが、文章の配置やフォント、大きさも細かく指定される。内容に負けず劣らずこちらを強調されるのである。

一部の指導においては「これまでにやったことがあるはず」との指導も見受けられたが、この授業の系列は必修でありながらいくつものクラスにわかれている。つまりは教員が別であり、これは問題点としてしばしば指摘される。

また、このような課題があるにもかかわらず、授業の大部分は課題の映像を鑑賞→並行して要点をメモ→それへの意見をまとめる→ディスカッション→その結果を発表という流れのものであった。課題についての説明はほぼなく、中間報告と称して何度か発表の機会は設けられたものの与えられる情報はあまりにも少なかった。

惜しむべきは、その方針が揺らいでしまったことであろう。この授業は後期に配置されていたため、年を跨ぐこととなる。年内の発表ではレポート用紙にして15-20枚という、場合によっては卒業論文にすら比肩し得るとも思われる驚異的な質量を以って受講者を圧倒していた。

ところが、年が明けた後にはそれへの言及がなされず、15枚に満たない分量で提出された課題であってもA評価が得られる事態となった。これについての真相は定かでないものの、結果として課題難度と単位難度を1ランク下げることとなってしまった。

ちなみに、弊学部ではいずれ興味関心に従って複数の領域からひとつを選んで深く学ぶこととなる。映像のテーマは性差別や子供、貧困に偏っており、これらはその領域のひとつに該当するのだが、つまりは必修たる英語の授業において選択必修のひとつに過ぎないロシア語を延々と題材にされるのと似ている。

望むと望まざるとにかかわらず、専門領域でこれらを選ばなかった者も触れざるを得ない。学部のテーマのひとつでもある偶発的学習といえるのかもしれない。

最終回においては、「この授業で正しいレポートの書き方を学ぶことで、これからの人生においてどんどん研究するようになって欲しい」と結ばれた。このような難解極まりない規則や形式を知ってこうなるとは考えにくい。自身の経験から学ぶという学習の形は、人間の根源的なものであろう。最後にして最初へ還るという文学性すら秘めていたのである。

 

 

 

第2位

課題難度: A

出席難度: C

単位難度: B

唯一前期の授業から受賞した。この授業は司書過程の必修枠に含まれており、司書の仕事や図書館の仕組みを学ぶことになる。

初回ガイダンスにおいては、これらのことや評価基準以外にこの授業でのルールなるものが語られた。それは「けじめはきちんとつけたいので、授業の始まりと終わりには挨拶をする」というものだったが、次第に行われなくなっていった。自己満足を強要する教員は珍しくないが、それを押しつけておいて自ら忘れるという独自性が評価された。

序盤や終盤にこそ図書館にまつわることを学んだが、中盤には「課題文に対して自身の意見を書き、それを学生同士で互いに評価し、さらにそこで得られた意見を元に加筆する」という授業が行われた。この意見文自体は難度も分量もさして驚異ではないものの、指導が「文章の書き方」に偏っていた。

この授業はあくまで図書館に関することを学ぶという触れ込みであり、受講者もそれを(もしくはただ単位を)求めていると推察される。しかし、後から振り返ってみても教員が最も熱心に指導していたのは文章の書き方であった。さらに、そうして教えられる内容は初歩的なものでしかない。「シラバスにあることがすべてではなく、また授けられるものすべてが有益とも限らない」という教訓めいたものを感じさせる。

なお、その課題におけるあらゆる作業はPCで行われたが、オンライン授業ではなく大学のPCルームを使った対面授業だった。感染対策と称してディスカッションは掲示板を用いて行われ、全員が同じ部屋にいながら掲示板を通して会話するという形になった。

オンライン授業は、空間を共有しないことで自由に会話ができるという長所を持つ。そんな中、あえて対面で授業を行うことによりむしろディスカッションの質を下げているのである。現代ならではの矛盾を体現した芸術性、苦難の道を自ら選び取る勇敢さが見受けられる。

期末課題は他に類を見ない手間を要した。テーマと公立図書館を決め、そのテーマにおいてどのような資料が収集されているのかを調べる。そして、公立図書館のコレクション方針と照らし合わせてその方針通りに資料が収集されているかどうかを分析するのだ。

この調べる過程が曲者であり、かなりの時間と労力をかけなくてはならない。分析の観点や比較する項目は各自に委ねられるものの、基本的にはテーマについて国会図書館、商業書誌データベース、選んだ公立図書館のそれぞれで検索し、出てきたすべての資料とそのデータをまとめることとなる。重複の有無も見逃せない。

また、このような課題であるにもかかわらず、与えられた情報は圧倒的に不足していた。テーマ選定の基準として与えられたのは「(各サイトで検索した際のヒット数が)20-30件では少ないが1000件では多い」のみであり、それを元に選定されたテーマを教員が評価する機会も設けられたものの、そこでの評価基準は「教員が知っているか否か」であった。すなわち、教員が知っていればヒット数が多いのではと疑問を呈され、知らなければ問題なさそうと診断されるのである。

この点は第3位の授業とも似ているが、明暗を分けたのはその結末であろう。第3位の授業は高難易度の課題を課しさらにそれへの説明は圧倒的に不足していたが、最終的には無難な難易度に落ち着いてしまった。一方でこちらは終始高難易度を貫き、評価においても厳格さを維持した。挨拶についての態度は貫かれなかったが、前述のように特徴として受け取ることもできよう。

以上のように、実に多彩な性質を孕みつつ高難易度の課題が待ち受けるのがこの授業である。資格取得に必要な単位でありながら教員の私情が色濃く、この圧倒的存在感も受賞に貢献した。

 

 

 

第1位

出席難度: EX

課題難度: EX

単位難度: EX

この数学的なパズルを解くことになる授業はオンデマンド式であり、課題の提出期限も約1週間後と比較的長い部類に入る。それにもかかわらずこのようなイレギュラーな結果を記録した。こちらのEXはEXTRAのEXであり、大きく変動することを示している。

毎授業の流れとしては、資料の置かれたGoogleドライブのリンクと課題提出フォームが送られてくる。資料には「ハノイの塔」や「ニムゲーム」など、数学的なパズルの概要と解き方の例、応用問題が記されており、その応用問題を解くことが課題であり出席でもある。期末課題は、更なる応用問題4題の中から2題を選択して解く形式だ。

「日常生活」と謳い、数学に疎くても親しみやすいようなイメージを醸し出しておきながら、その実態は極めて数学的なアプローチを行っている。その裏切りの鮮やかさは評価に値する。

文系に突然█進法だの素数だのを出されても理解できないことをまったく理解していない。しかも、高校生の頃に数学と訣別して以降はそのまま、という者も多いはずだ。どう考えてもそのような者が取るべき授業ではないのに、その実態を巧みに覆い隠しているのである。

さらに、課題提出が出席であるため、どうにかして解いて提出しなければ出席すらできない。問題によってはインターネットで検索してもろくに情報が出てこないこともあり、シングルプレイは困難を極める。

以上のように、おそらく数学の能力に秀でているかそのような者と協力できる環境にあれば特に問題はないが、そうではないものにとっては一転して非常に厳しい戦いを強いられることになる。擬態して獲物を待ち伏せキルゾーンに入って後戻りできなくなった途端に本性を露わにして捕食するという、鮮やかにして残虐なる狡猾さは優勝にこそふさわしい。

 

 

 

なお、得られた情報が少なかったことからノミネートは逃したものの、他にも数々の優秀なクソ授業が存在していると考えられている。テレビ番組にも出演するような有名人が講師を務め、自慢話を90分フル×15セット聞かされるという授業も中々だが、

 

・教授が「数学のできる者は選ばれし者」という極端な選民思想を抱いている

 

・オンデマンドながら異様な量かつ難解な資料を毎週送りつける

 

・期末試験が大問4つから構成されているものの、ほとんどの者が大問2までしか到達できない

 

という授業の存在も確認されている。開幕抵抗消去不可最大HP減少デバフは痛い。もしこれらが真実ならば、スペイン語に匹敵するか上回る評価となるだろう。幸いにもこれは流体力学なる授業であるらしく、文系とは一切縁のない次元に存在する。まさに異次元の怪物だ。

今年度のクソ授業アワードは以上だ。去年よりもあらゆる面でレベルアップが見られ、多様性の時代にふさわしく新たなジャンルの開拓も進んだ。なにもかもがめまぐるしく変化していくこの世界で、来年度はどのようなクソ授業との出会いが得られるのだろうか。