ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

はじめてのバーにデュオで行ってもいい 前編

 イングリッシュパブへ行った帰りに、同行していた友人から別のバーに行かないかと誘われた。学割で朝5時の閉店まで飲み放題らしく、それで2000円とコスパは抜群にいい。しかし、ただのバーではなく出会いを目的とする紳士淑女が集う場であるという。既知の類似施設としていつぞやのナイトクラブでの経験が脳裏をよぎるが、これもまた経験と行くことにした。

 繁華街のような地区の一角にその店はあり、周囲がガールズバーだの風俗店だの居酒屋のキャッチだのでいっぱいなので怪しさが増している。入口には券売機があり、ここでチケットを買うと入場できる。入口を担当している店員の愛想も悪くはない。なお、不安点ではあったがクレジットカードは問題なく使えた。チェーン店であるというから、ここら辺は充実しているのかもしれない。

 本当に2000円だけで入れてしまった。ナイトクラブより安い。店内は思ったより狭く一部屋しかない。それも、床面積をすべて合わせても山手線の車両がせいぜい1両か2両程度だ。全体的に薄暗く音楽がずっと流れているものの、暗すぎもうるさすぎもしない。壁に沿って幅の狭い腰かけがあり、スタンドテーブルがいくつも店内には配置されている。テーブルの数からすれば少ないものの、椅子もあるので老人の劣化した脚部にやさしい。

 部屋の中央にはカウンターがあった。酒はかなりの種類があり、知らないものも多い。飲み放題の証である不可視のスタンプを可視化するために、注文口のあたりはブラックライトで照らされている。酒が照らし出される様子もまた綺麗だった。

 トイレは3つあり、キャパシティーに対して少々過剰ではないかと思われた。理不尽にチップを取られることもなく、清潔感もそこらの居酒屋より上だ。4人か5人程度が入れる喫煙室もあり、外でいちゃつく他人を燻る煙越しに殺意を込めて凝視することができる。

 窓際にはVIPエリアがある。ここはナイトクラブと同じだが、景観と雰囲気を損なう黒んぼの警備員はいない。代わりに一般の店員がこの管理もしているようで、威圧感はなかった。そこには専用のソファ席と共にダーツの筐体も設置されていた。利用料は30分で1800円だという。ぼくの時給より高い。

 とりあえず近場の席に陣取って酒を酌み交わしていると、男のペアが話しかけてきた。今日のファーストコンタクトだ。彼らもここが初めてらしく、似た境遇だ。話している内に、ふたりが珍しい職種であることも判明した。ぼくの同行者はその分野に造詣が深く、思わぬところで意気投合した。ぼくとも趣味は合い、ひとりはコミケにも行くらしい。

 しばらくすると女のペアが会話に入ってきた。突然のいい兆候に我々は喜び、案外趣味も合って会話が弾んだものの、最終的に女は終電で帰ってしまった。黒髪のショートは同行者の好みだったのに、残念なことだ。ぼくの好みは店員だったのでお手上げである。

 それらをよそに我らが親交を深める中、また別の男が会話に参加した。彼は我々より年上らしく、馬耳東風な我々へ対し出会いを求めるにあたってひたすら行動することの大切さを説いた。やがては突撃を敢行し、玉砕し、我々のところに戻ってきて「あんな女願い下げだ」と吐き捨てて再出撃するループができた。

 さらにもうひとりもやってきた。彼は無料案内所に勤めていて、夜の世界に詳しいという。人脈も広いらしく、最初のふたりの片割れが女への出会いを求めていると話すと、すぐさま女が紹介されていた。ぼくも今度そっと相談してみようと思う。

 意図せずして男たちとの交流が育まれた。もはや何杯かわからないまでの酒を飲みつつ、夜明けまでの時間はずっと彼らと語り明かしていた。平日だったからか、客が少人数だったのがよかったのかもしれない。この日見かけた客は全部で20人程度だったし、最後までいたのは10人にも満たなかった。