ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

はじめてのバーにデュオで行ってもいい 後編

 出会い系バーという未知領域に突入した。我々に話しかけてくるのは男ばかりだが、話してみれば興味深い者たちだ。女の母数も少なく、彼らと話して過ごしていた。

 VIPエリアにはいつのまにやら女ふたりがいて、ダーツに興じている。ナンパに余念がない25歳は突撃して店員に止められていたが、他の男ふたりはわざわざ金を正規に払って踏み込んでいた。誰の腕も似たり寄ったりの下手さで、ダーツに自信のある同行者はダーツしたさを堪えている。

 この店の特徴のひとつが、途中入退店が無制限なことだ。慣れた者はカラオケやラブホに行って有効活用するのだろうが、我々はコンビニへおにぎりを食べに行った。外で食べてくる分には問題ないのだ。

 バーへ戻る道すがら、吐瀉物の前で項垂れている男を見かけた。夜の街の名物という感じがする。どうやら近くのクラブから出てきたらしい。入口の門番はどんな気分でこれを眺めているのだろう。

 店へ戻ると、25歳は別の女ふたりを次のターゲットとしていた。彼女らに煽てられてずいぶん飲まされているようだが、様子は悪くない。片方の手を握り、かわいいと囁くまでになっている。肌の様子からすると、女もかなり酔っている。酒で認識能力を削るのがいいらしいと、そっとメモする。

 ところが、少しすると25歳はもう片方にターゲットを移したらしい。こちらも首尾は上々、手どころか髪から背中、腰、ふとももにかけて撫でても許されているようだ。正直、我々は彼を見くびっていたのかもしれない。

 努力云々というふわふわしたものではなく、2対1のこちらが人数不利の状況でどう話しかければいいのかとか、酔わせようと酒を酌み交わすにはどうすればいいのかとか、特にふとももを撫でるにはどう会話を運ぶべきかを知っているのなら教えて欲しかった。そうすれば我々も真摯に耳を傾けたことだろう。

 我々が密かに見守る中、キスも秒読み段階かという雰囲気でふたりは姿を消した。この後を我々が知ることはできないが、うまくやったなと思う一方でうまくいかなければいいなとも思った。

 ラストオーダーの時間になり、ソフトドリンクを頼んで酔いを醒ます。我々はもはや次に集まって飲める日を考え始めている。狙っていたのはワンナイトかもしれないが、この付き合いはワンナイトにはならないだろう。

 気がつくと、驚くべきことに25歳が店の隅に帰ってきている。女は見当たらず、どうやらひとりだけで戻ってきたようだ。荒れている様子から見ていいことがあったのではないらしく、我々もそれを聞ける雰囲気ではない。

 さすがに憐れむべきかもしれないし、いい気味と思うべきかもしれない。彼が悪いような気も、女が悪いような気もする。恋愛はわからないという感想しか出てこない。

 いよいよ退店すると、VIPエリアにいた連中と無料案内所の男はカラオケへ消えた。ずいぶんダーツではしゃいでいたはずだが、元気なものだ。残るメンバーは駅へと向かう。

 今回もまた、異文化交流であった。こういうところにいる人間も悪い人間ばかりではないこと、ガワが体育会系ぽくても気のいい者はいること、慣れた者は女を酒で潰すことと、様々な知見を得た。クラブよりよっぽど楽しい夜を過ごしたと思うし、また来てもいいかもしれない。

 ひとりだけ歩いていると、道の隅で座り込む女を見つけた。近寄ると吐いた痕跡があり、嗚咽も聞こえる。こういう時は惨めさに押し潰されそうになるものだし、助けになれるのならそれに越したことはない。あわよくばお近づきにという邪心が脳裏に去来したことは否定しないが、やらない善よりなる偽善という。

 水を与えるといくらか回復したようで、タクシーに乗りたいと口にした。望み通り捕まえると、彼女は後部座席に倒れ込み姿を消した。一緒に乗り込むべきだったのかもしれない。これではただの親切な人ではないか。