ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

実習で異文化交流 その⑤

2日目 後編

 集合場所の部屋へ行こうとしてふと気づいた。ホテルの部屋にはたいていカードキーを挿すところがあって、そうすることで通電される。今挿されているキーはぼくのものなので、出かけるからといって抜けば電気が消えてしまう。

 仕方なく、影武者にカードを借りて代わりに挿しておきたい旨を伝える。無事了承されたので、彼のカードと交換して自室を出た。

 会場となった部屋には、影武者以外の全員が来ていた。改めて本格的な自己紹介をして、酒盛りに興じる。案外話の通じる連中のようだ。また、他の人々も影武者に対し引いていたことがわかって安心した。

 

 

3日目 前編

 この日も朝食の時間を合わせることにしていたのだが、影武者はずっと早い時間に済ませてとっくに戻っていたらしい。ぼくは時間通りに行って戻ったが、案の定ジョニィは姿を見せなかった。

 出かける準備をしていると、まだそれなりに早いのに影武者は準備を済ませたようで部屋を出ていった。無言で、カードキーを抜いて。

 当然、部屋は突如暗転する。昨夜の配慮が馬鹿らしくなる。伝えてあるのだから「カードキーを抜けば電気が消える」というシンプルな事実を知らないはずはない。共同生活がひどく不安になる。

 ホテルの前でタクシーを待つ。今回の実習では、ほとんどタクシーで移動した。タクシーといっても、マイクロバスのさらにマイクロなものといった感じのもので、7人+先生を乗せることができる。これが学費で賄われるのだからありがたい。

 しかし、いくら待ってもジョニィは来なかった。彼女はソロ部屋だから、誰かが起こすこともない。今日はいよいよメインの図書館へ行くので、相手を待たせる訳にもいかない。とりあえずタクシーは発車した。

 実習先の図書館には自動車図書館があり、今日の午前はこれに同行する。その準備を図書館の駐車場で待っていると、ジョニィが起きたと連絡があり、タクシー(自費)でこちらに向かっているという。自動車図書館の出発に間に合うかどうかが危ぶまれたが、無事に着いたらしい。

 逐一報告されているのかと思ったら、ウェカピポや復讐者は座標共有アプリを使って把握しているようだ。「今、最後のコーナーを曲がりました!」と駅伝紛いの実況までしている。こういうものは陽の者かメンヘラでないと使わないと思っているので、深く文化の違いを感じる。

 幼稚園で、読み聞かせと自動車図書館の活動を見学した。小さな彼らがお兄さんお姉さんになる頃、我々はきっと中年だ。時の違いに胸を打たれる。我々はなるべく目立たないように読み聞かせを拝聴した。

 子供たちが本を選んでスタッフのところへ持っていき、貸出手続きをしている。自前の利用者カードまであるから驚きだ。借りたい本がなかなか見つからない子供への対応など、幼稚園側のスタッフも慣れた対応をしている。SDGsの本を幼いながら借りている子供を見ると、胸が痛んだ。園内にはポスターも貼られており、順調に洗脳は進んでいるらしい。

 この時も、我々はなるべく邪魔にならないよう隅っこで子供たちを眺めるだけに留めていた(てっきり手伝うものかと思っていたがそんなことはなかった)のだが、子供たちの何人かはこっちへ来てくれる。もともと幼子との交流活動に縁があるというウェカピポは初対面の子供とも打ち解けており、見事な「大学生のお姉さん」ぶりを発揮している。車の停まっているところまで歩く際も、子供から手を繋いでくれていたようだ。

 驚くべきことに、影武者も子供に話しかけようとしていた。これまでの振る舞いからは想像できない現象だ。ところが、結局子供には逃げられたようだ。「しゃがんで目線を合わせないから」とはウェカピポの批評である。

 ぼくはそれを眺めつつ、クレカの新規加入特典ポイント(6000円分)が期限超過で消えたことに思いを馳せていた。