ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

実習で異文化交流 その⑧

5日目 中編

 館内でも目を引いたのが、ヤングアダルト向けのコーナーだ。最近では多くの図書館に配置されており、地元の図書館にもあった。10代最後の日に何をしようか迷った挙句、「未成年優先閲覧席」を使ったことを思い出す。あれが最初で最後だろう。大抵は、10代の若者向けの本が置かれている大きめの特集コーナーといったところだろう。ライトノベルもここにあることが多い。

 この図書館もそれは変わらなかったが、壁が大きな掲示板になっているのが特徴的だった。どうやら利用者はここに絵を掲示できるようで、若き絵師たちの作品がいくつも展示されている。さらには、ただ絵を飾るだけの場所ではなく交流もあるようだった。絵にコメントを残す者、リクエストを募る者、さらには女子中学生遊戯王部なる募集をする者のように、サブカルを愛する者同士の交流が行われていて、常日頃からこの様子らしかった。何より、これを図書館が置いているというのが大きい。

 図書館は教育施設であり、あくまで本を借りたり読んだりするための場だ。それは否定しないが、そんな場にあってサブカルを愛する若者たちを保護しその交流を推進してくれるという存在がいかにありがたいことだろうか。本は人と人とを繋げてくれる。そのことを教えてくれているのだ。この世の奇跡がそこにあった。

 感銘を受けて古本市会場に戻ると、さらに客は減っていた。ぽつぽつ来るには来るが、最初ほどの勢いはもうないようだ。もはやすることもなく、先生と一緒に本を整理しつつちょっとした知識を得た。個人では揃えることが不可能に近いくらいの巻数があり、今もなお出版され続けているシリーズがあるという。その何冊かが売られていたのだが、先生の知り合いにはすべて揃えている者もあるという。興味がないこともないが、追い付くことすら困難そうだ。

 持ち回りだったレジの手伝いのノルマも終わり、いよいよすることがない。傾き始めた日光を中庭で浴びていると、若い図書館職員がいるのを見つけた。そういえば、実習先の県をテーマにしたアニメがあり、これのファンである友人から現地での受け止められ方を聞いてきてくれと頼まれていたのだった。今が好機と見るべきだろう。

 実際に聞いてみると、他の職員も呼んできてくれた。話によれば、あまりアニメと縁がないような人でもタイトルは知っていて、全体的にふんわりとした好印象のようだ。コラボしているらしい店も教えてくれた。再三布教されておきながらぼく自身は未履修なのだが、どうやら同じ県内ではあっても違う地区がメインで登場するらしく、どうせならもっとこっちも扱って欲しいとのことだった。

 なお、ボランティアのスタッフから「図書館側から古本市に出せるものがないかどうか聞いてみてくれ」と頼まれ、それをぼくが聞いたのも彼だった。彼自身はきちんとそれを遂行してくれたようだったが、上司らしい中年女に「言いつけたことはどうしたのか」と詰められていた。申し訳なさを覚えると共に、図書館でもぼくのバイト先みたいな人間関係に悩まされる彼に同情した。

 もう閉店も近い。この時間まで売れ残っている本は、おそらくまた来年に回されるのだろう。そういくばくかの悲しみを持って本を眺めていると、なんと『MOTHER1+2』の攻略本を見つけた。ずいぶん昔のもののようだが、帯にかすかな傷がある程度でかなりきれいな状態だ。閉店間際まで誰も買わなかったのなら自分で買おうとしたが、案の定誰も買わなかった。

 思わぬ収穫も得て古本市は閉幕した。最後に感想をそれぞれ述べて、この日は解散となった。ほとんどまとめのようなものだったが、明日も似たようなことをするらしい。何が違うのか、日を跨ぐ必要があったのかは今も正直わかっていない。解散後は新しいホテルへと向かったが、荷物を置いて早々に部屋を出た。打ち上げの時間だ。