ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

就活雑感 4月後半編

 ひとつだけ選考を進んでいた介護の会社の面接に行ってきました。近頃ではすっかりエージェントとの連絡も取らなくなってしまい、結局のところ介護向け志望動機は自分で考えざるを得ませんでした。これは私の核、大事にしていることのひとつですから嘘ではないものの、言葉による対話と観察で情報を得て、それを元によりよいものを提供するという点で介護に興味を持ったとエントリーシートでは主張しました。

 綺麗なビルの中に通され、まずは試験を受けました。これまでのように底意地の悪い問題ではなく、「介護において重要な資質を考えて述べよ」のような論述問題や文章の情報を読み取って整理する問題、単純な計算問題が出されました。地図の縮尺は不安です。

 面接では、やはりエントリーシートの内容を聞かれました。特に大きく詰まるようなことはなかったと思います。朧げな説明会の記憶を頼りに戦いました。

 面接が終わると、エレベーターで他の就活生の女と一緒になり、駅まで話していました。彼女は彼女である程度の数を出願しているらしく、またも焦りが募ります。このあと少し用事があったので駅で解散しましたが、別に急を要するものではなかったしもう少し話していてもよかったかもしれませんね。最近では授業が被る知り合いも減り、周囲の就活の生きた情報が手に入りづらいのです。

 数日後にはエージェントの会社から不合格通知が届きました。志望度もあって大きなショックはありませんでしたが、特に売り手市場だとされる介護業界、しかも大きめで採用人数も160人くらいあるはずの企業に落ちたという概念は不安を残しました。

 なお、それから少し経ってから不合格になった企業のマイページに通知が来ました。何かと思って見に行くと、それなりのラグを挟んだ不合格通知がこちらにも来ていました。もしや第二次募集でもあるのかと期待していたので損した気分です。

 それから程なくして、いよいよ例の会社の面接の日がやってきました。とりあえずインフラエンジニアの本を読み返していると時間が危うくなりかけましたが、無事に着くことができました。緊張に腹を痛めつつ、エレベーターに乗ります。

 エレベーターから降りると、人事部の人が待ち構えていました。最初の説明会にも前回の面接にもいた人です。その人に会議室らしき場所へ案内されたのですが、「事前の連絡では人事部の人&人事部長&社長VS私という話だったけど、人事部の人&人事部長&現職のインフラエンジニア&社長VS私にするね」と告げられました。はじめての最終面接は4VS1です。

 やがて、彼らが姿を現します。社長も人事部長も貫禄を放っていて、こちらのPPが削り取られそうです。幸か不幸か現職のエンジニアは若めでしたが、人数差はどうしようもありません。最初に自己紹介を求められたのはいつも通りですね。

 次に聞かれたのが、この会社が何をしているかでした。確認してこなかったところなので焦り、ふわふわめのことをどうにか絞り出しました。しかしそれはシステムエンジニアの仕事のことであり、社長としてはインフラエンジニアについてを聞きたかったようで、「それとインフラについてもやっています」のようなことを言われました。不安なスタートです。

 次に聞かれたインフラエンジニアの業務内容については、資料を見ていたので多少は具体的なことを答えられました。社長も「よく理解していらっしゃると思います」といい感じです。

 今回の面接で聞かれた内容を整理すると、①インフラエンジニアについてどう理解しているか、②インフラエンジニアとして働くにおいて重要な自己学習はできるのかの2点に大別された気がします。世間話とか振ってくれてもよかったんですよ。

 エンジニアに興味を持った理由としては、司書資格課程を話しています。図書館情報学で図書館の蔵書管理システムのことを学び、業務を支えるシステムについても興味を持ったということにしています。実際、検索システムやその仕組みの授業があります。

 また、レファレンス・サービス(利用者のニーズに合わせて資料を提供する業務)についても触れています。この業務をざっくり言うと、「千差万別な客の課題に対し、対話によって自身の知識と経験を元にした解決策を提案する」というものです。これはインフラエンジニアだけでなくシステムエンジニアにもいえるので使い回し感は否めませんが、外れたことは言っていないはずです。

 レファレンス・サービスも、自己学習が欠かせません。もし「『ブレード・ランナー』の本が欲しい」という利用者が来たとして、映画『ブレード・ランナー』のノベライズを渡したとしましょう。一見、どこにも問題はないように思えます。ですが、もしかするとその本は利用者が本当に求めているものではないのかもしれないのです。

 もしそこで映画『ブレード・ランナー』には原作小説があると知っていれば、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を選択肢として提示できるかもしれません。仮に利用者自身がそのことを知らなかったとしても、新たに知って借りたいと思うこともあるでしょう。さらに、小説を映画化した際にまた別の小説『ブレード・ランナー』からタイトルだけ借りてきたことを知っていれば、そちらも提供できるのです。

 これは極端な例でしょうが、いくら優秀な蔵書検索システムがあったところで本人の知識と経験がやはり大きいということ、そういう仕事について学んでいることは示せていると思います。この具体例出せばよかったかもなと会社を出てから思い出しました。

 今回はインフラエンジニアへの理解を深めるべく本を読んできていると話すと、少し突っ込んだことについて聞かれました。人事部長曰く、本に出てきた中で具体例に興味を持った技術や印象に残った図はないかというのです。「具体例」という単語は発言ごとにペナルティが科されるようにすべきだと思います。内定ひとつとか。

 一応最後まで読んだものの、本自体がある程度の基礎知識を前提としていたために専門用語が絡んでくるとほとんど理解できず、どちらかといえば心得(それも学び続けろとかコミュニケーションを欠かすなとかでした)の章を重点的に読んでいました。具体例な単語はほとんど思い出せません。

 詰まっていると、「専門用語のところはわからなくてあたりまえだと思うので、固有名詞でなくても大丈夫ですよ」と現職が助け舟を出してくれました。きちんとこちらの牽制を大事にしてくれています。

 それで少し思い出して、「ネットワークのある部分だけ暗号化をあえて行わず、そこでアクセスが正当かどうかを判別する」という仕組みが興味深かったことや、ネットワークとそれぞれの端末の間にはファイアウォールやスイッチといったものが挟まっているように思っていたよりも複雑な経路があって、それによって安全で便利な接続ができていることが新鮮だったと話しました。現職からは「おおむね合っている」、人事部長からは「そういう仕組みに興味を持てるなら、インフラエンジニアが天職と完全に断言はできずとも、向いていないということはないと思う」と言われました。

  自己学習については、この図書館情報学での学びと業務効率化ツールを軸に主張しました。新しい技術を常に学び続ける姿勢についても、なるべくわかっていそうな雰囲気を出そうとしました。「現行の技術は抑えつつも、提案できる選択肢を増やすために積極的に学んだり実践したりする機会は逃さないようにいたいと思います」と述べました。

 そういえば、司書資格の取得を目指していると話した際に「司書になろうとは思わないのか」と聞かれました。なれたらいいなと思わないこともありませんが、非現実的かなと諦めの気持ちでいます。①給料が安そう、②枠が狭そう、③人間関係がつらそう(迷惑な老人や堅苦しい上司との出会いで神経を擦り減らすことになりそう)、④イレギュラーで調べ方がわかりにくそうといった点が理由です。枠が狭いのでとだけ答えておきましたが、これはどう答えるのが正解だったのでしょう。

 どう答えるのが正解なのかわからない問いは、これだけではありません。他にどんな業界を受けているのかとか、それらの選考の進み具合はどのくらいなのかとか、いったい何が正解なのでしょう。正直に答えました。

 周囲からは「最終まで行けば出来レース」とか「通ったのでは」と言われいい気になっていたのですが、後日に来た連絡で祈られました。インフラエンジニアの本を読んだ時間も完全に無駄になりましたね。

 現在はちょっとした放心状態にあります。はじめて途中まではうまくいっていたものですから、安心していた部分があったようです。そこから不意を突かれた衝撃と、すべて無に帰した喪失感、手元には何もないのにもう5月という絶望感でどうしたらいいのかわからなくなっています。

 以前も書いたかもですが、ここは待遇もいいところでした。ことに月給ではこれまでに見たことのある中でも最高額です。それを喪ったのです。就活エージェントが持ってくるのはここより安いとこばかり、大手だってまだ募集があるんだかどうだか、そもそも売り手市場とされる業界でふたつも落としているのに入れるところなんてないんじゃないかとか浮かんできて、フリーズ中というわけです。

 給料がいいところに行きたいのは、もちろん単純にそうした方が生きやすいというのもあるのですが、かつて知り合い(旧協力者のひとりで社会人です)に「おまえはどうせ私の月給以上のところ行けないだろ」と言われたことが忘れられないからというのもあります。上を目指す原動力としての福音となるか、見果てぬ夢との心中や消えない劣等感を呼ぶ呪いとなるか。十中八九後者でしょう。まったく本当に本当に厄介なことをしてくれたものです。

 就活というのは恋愛に近いのだと誰かが言っていました。相性がいいと思える相手を見つけ、自分を売り込み、選んでもらうというプロセスは確かに似ています。ですから、選ばれなかったということは自身を否定され拒絶されたこと、不要な存在だと断じられたことでもあるのです。1月以降フラッシュバックっぽい感じで拒絶が弱点の私には、何度もお祈りされるというのはとてもつらい経験になることでしょう。これを何度も繰り返すことを承知でこのあとを過ごさなければならないのに、たった1回でこうなっていては先が思いやられますね。