ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

[2021] 第10次中間報告

はじめての会合が通達された。通達といっても学部やフットサルサークルからのものではない。フットサルに関しては入会した覚えもない。今回の通達は大学祭実行委員会からだった。広報局に残るために望まない仕事をすることになって、気分は左薬指を失ったジョン・ウィックだが、それでも新しい知人くらいは得られるはずだ。会合地点へと向かう。

現状、識別できるのはビッグ・ボス(局長)とパンフと対外のボスくらいだ。彼らがいなければ委員会の集団か決めかね、輪に入る勇気が出ずにひっそり立ち尽くしていたところだった。会合の開始を待っていると、新入生らしき者どもが集まってくる。やってきたのは1年生の女がふたりと男がひとりだ。男の方には会ったことがある。前回の説明会で、私を同学年だと思って話しかけてきたのだ。どうやら入会を決めていたらしい。

開始間際になって、新たに男が現れた。2年生だが新参者らしく、私と同じ境遇だ。親しげに話しかけようとしたが、彼の手に蒙古タンメンの容器を認めて思いとどまった。辛いものを好んで食べる奇特な者か、蒙古タンメンをよく知らずに買った軽率な者かのどちらかに違いない。

いよいよ始まった会合は、オンライン形式な上に新参者にはほとんど無関係な内容だった。たちまち己の存在意義を見失い、同じテーブルの3人(1年生の男だけ別テーブルだった)に悟られることなくこの場を去れそうな気がしてきた頃、ようやく会合は終わった。

会合は終わったが、部署ごとに軽くミーティングが待っていた。他の部署ならば仕事始めについて話していたのかもしれないが、対外部のボスから告げられたのは「顧問が変わったばかりで活動許可が出ていないため、しばらくは暇」という話だった。いよいよ存在意義がわからなくなる。

その後は新参者たちで交流に努めた。ボスや新参者ではない2年生からの自己紹介もあったが、名前も顔も覚えられなかった。いずれ時が来れば覚えられるだろう。

彼らへの自己紹介では「2年のくせして新参者で、その上浪人もしてるもんで、なんだかすっごくアウェーです」と再びインパクトに満ちた上に語感もいいフレーズを用意していたが、さすがに他の者が学部学年名前くらいしか話していない中で初手に使うのはためらわれ、今回は見送られた。

それも終わると、いよいよすることがない。ボスによって解散が宣言され、まだ打ち合わせが続く他の部署を残してキャンパスを去る。1年の男は行方不明になったので、先程同じテーブルにいた3人と共に最寄り駅へと歩き出した。

そういえば、彼女らは初めて認識した後輩だ。無為に1年を過ごした私ではあるが、せめて何か先人の知恵を継承したい。サークルは入っておらずむしろ紹介してもらうのがふさわしい立場だし、彼女らとは学部が違うから授業の話もしづらい。友人の作り方に至っては論外だ。何かないだろうか。

3人が会話に興じる横でしばし黙考した末(これが悪い癖であることは認める)、思い出した。有益な話である上、私くらいしか遭遇していないであろう稀有な経験に基づく話だ。これならば後輩にインパクトをもって私の印象を植え付けることができるだろう。しかも彼女らにとっても参考にならない訳ではない。

私は満を辞して落単RTA経験談を語った。履修登録期間こそ終わったが、いずれ後期もやってくる。先人からの遺言は価値ある情報となろう。他のどの先輩もこのような忠告を残すことはできない。ちょうど、「このCDはひとりにつき2147483647枚までしか買えないから気を付けてね」と忠告するようなものだからだ。

ところが、後輩たちは笑ってるのか心配してるのかどっちつかずの反応で、タンメンが「これは極端な例だからね」とフォローに回る始末だ。次回からも親しく接してくれるかわからなくなってきた。友達料の納付も検討すべきだろうか。