ウルリヒトゥレタス

皐月川納涼床

[2021] 第6次中間報告

ある日の放課後、授業を終え校門へ向かっていると「大学祭実行委員募集」の看板を掲げた学生がいた。まもなく始まるという説明会への勧誘をしているようだ。

私はチームワークだのアットホームだのは嫌いだが、何かの行事で準備に追われるのは好きだ。これを発見したのは古本市の責任者をした時のことだった。広報部のパンフレット作成にも携わりはした。もっとも、異様に優秀で仕事を抱え込む者がひとりいたためその隣で「ここの統合がまだじゃないか?」とか口を挟むくらいしかすることがなかったが。

そんな訳で、のこのこと会場へ入っていった。着席し開演を待っていると、前方のスクリーンで準備が開始された。映し出されたのは今回の予定だったが、そこには説明会後に交流会をするとあり、「1年生同士で知り合えるよ」みたいなことが書いてあった。私は新入生向けの説明会に迷い込んでしまったのである。

可及的速やかに最寄りの委員にその旨を懺悔したが問題ないよと言われ、さらにある女を示された。彼女も2年生らしい。促されるまま隣に座り、自己紹介をすると同学部であることも判明した。

ところが、それ以降その女は話しかけてこなかった。それどころか携帯電話の操作に忙しいアピールに励んでいる。強力なATフィールドだ。またひとりに戻ったところで、やっと説明会が始まった。

真摯に耳を傾け寡黙な聴衆に徹したところ、以下のことが判明した。①委員内には部署が複数あって今回のはそのひとつに過ぎない、②遊びや飲みなどサークルとしての性格も強い、③司会の男はオンライン授業の全体チャットで自身のインスタ垢IDを送信したことがある、④ここの者は大なり小なりこんな陽キャばかりだ、⑤さっき貰った菓子は食べていい。

交流会が始まっても、私に話しかけてくる者はいない。隣の女は他と盛り上がっている。私が菓子を鞄に放り込んでなるべく人の目に止まらない教室からの脱出ルートを策定していると、見るに見かねたのか委員が話しかけてきた。

その者に呼び寄せられた委員たちが集まり、なぜか私の大学生活相談会が始まった。彼らも皆輝かしい風貌だったが、私がサークルに入っていないことを知ると(そしてここの雰囲気にこの陰キャは合わないことを見て取ると)、彼らは私の性格や望みに適したサークルをそれが実行委員か否かを問わず提案してくれた。目の前にいるのが1つ歳下だと思っている同い年たちに先輩ムーヴされるのを私はしばし楽しんだ。そして、数日後に開催される別部署の説明会にも誘われてその日は帰った。その日が申し込み最終日らしい。

私が参加した2度目の説明会では、もう少し穏やかな部署が紹介された。ここにはパンフ班があるらしい。他の班も裏方の仕事がメインらしく、好感が持てた。活動日が1日のみ、しかも5限がある日(活動時間は5限直後らしい)なのも高評価だ。

前回と同じような流れで個別相談に持ち込まれた。唯一説明を受けていない第3の部署についても聞くことができた。それによれば、どうやらこちらも裏方らしい。

迷うところだったが、結局こちらは断念した。活動日に月曜日が含まれていたのが決定打となった。月曜日は全休なのだ。

パンフ班に入ることを決め、帰宅してフォームから応募した。うっかり期限を過ぎて出せなくなりメールで謝ってフォームを開けてもらったことなどいつも通りだ。

後日、面接があった。説明会で面接への懸念を伝えた(私は面接と聞くだけで不安になる。嘘だと思うなら12連続でアルバイトに落ちてみてもらいたい)が、あくまで雰囲気が合うかどうか程度だとのことだ。この真偽は不明だが、落ちることはないだろうと信じる他にない。

実際、面接はとんとん拍子に進んだ。採用確定ルートかと危うく信じるところだった。よく考えずとも、私にまともな面接の成功経験がないことは自明だ。これで安心してはいけないと誰かがスクランブル交差点のモニター程はあろうかという旗を振って警鐘を鳴らしているが、それでもどこかで希望を信じている軟弱さが私たるゆえんだ。

数日後、結果発表や新歓に備えていた私のもとに届いたのは、「定員の都合から再面接をしたい」というメールだった。